2015年6月1日月曜日

地政学リスクの基礎知識(5)中国の台頭は、旧来のパワーゲーム的地政学リスクスク

(1)USの後退、中国の勃興


第二次世界大戦後は、
A:グローバリゼーションと、
B:アメリカン・スタンダード(=アメリカ流民主主義+資本主義)
が推進される時代だった。

 IMFもWTOもアメリカの国益に資する「グローバリゼーションとアメリカン・スタンダード」を世界に流布させるために、アメリカの意思で設立&運営されてきた。

WTOは「江戸幕府時代に日本が遭遇した黒船による強制開国」と同様に、しかしヤンワリと世界各国に開国(=貿易の自由化、関税撤廃)を迫った。


IMFによる「ドル資金の貸付」が、黒船の大砲に変わる武器として使われた。金融の武器化である。
資金(USドル)を貸し付けて、US企業の製品を買わせた。多くの国が、借金(USドル)が無ければ経済(輸入)が立ち行かない状態になった


2015年に設立される予定の中国が主導するAIIBだが、
A:グローバリゼーションと、
B:非アメリカン・スタンダードの資本主義
という組み合わせの容認を世界に突きつけた。

Aの「グローバリゼーション」に関しては、中国を含め世界が「受け入れざるを得ないこと」と容認している。鎖国をしない限り、グローバリゼーションは所与のものだ。
隣近所の国や遠くの国、自分たちと異なる考え方の人々と、うまくやっていかなければ、国民を幸福にできない。それがグローバリゼーションのエッセンスだ。
一方、Bが意味する「資本主義」に関しては、アメリカ流が世界中の国にベストなものとして実現可能なのか、各地域の特性、国の政治制度、民族の歴史や習慣に応じた資本主義を採用すべきなのかは、第二次世界大戦後70年を経ても結論が出ていない。

ドイツやフランスをはじめとする大陸欧州の資本主義は、US流の資本主義とは異なる考え方だし、アジアの優等生、シンガポールも違っている。日本は民主主義の仮面をかぶった「もっとも成功した社会主義国家」と揶揄されることがあるほど、USから見れば異質な資本主義だ。

豊富な資源に恵まれ、3億人の人口という大きな市場を自国に抱え、広大な国土で農産物も生産し、いざとなれば自給自足も可能なUSに成立した資本主義は、そのUSという国の特性の上に成立したものだという事を認識すべきだ。
中国の主張する資本主義も、世界に存在する様々な資本主義の一個として受け入れられる可能性がある。
AIIBの参加国が50カ国以上になったことは、ドイツ、フランス、UKという欧州の主要国が参加するなど、中国的な考え方を加味した資本主義が受け入れられそうだ、という事態を示唆している。
少なくとも、口を出すが金も出すというかつての面倒見の良かった親分USが、今や口は出すが金は出さなくなった事態を受けて、USの子分たちが「金を出してくれる親分候補、中国」にも二股かけておきたいと行動を始めたということだ。


(2)安定している中国
国際政治における中国の地位は高まり続けるだろう。


欧米が期待する「経済の自由化が、民主主義への移行を促進する」という図式は実現しない。それが識者のコンセンサスになってきた。


共産党の指導者は膨大な数の共産党員から選ばれ勝ち残った7人だ。賢明であり、民主主義国家のように短視眼的な民衆の意向に左右される選挙対策に忙殺されることもない
世界的な見地、遠い将来を見据えて、足元的には苦痛を与える事を、民主主義国家より決断実行しやすい


今後も共産党が支配するという政治体制は現在のままだろう。

その意味では世界有数の安定した政治体制であるとも言える。 facebookコメントへ